EV普及の成長性不変、輝き放つ「次世代蓄電池、次世代モーター」関連株 <株探トップ特集>
―求められる主要部材の性能向上、研究開発に取り組む企業に注目―
新型コロナウイルスの感染が広がる中国経済の先行き不透明感に加え、米連邦準備理事会(FRB)による積極的な金融引き締めが米景気を冷やすとの見方などから株式市場が不安定な動きとなっている。26日の米市場ではNYダウをはじめ主要株価指数が大幅安となり、27日の東京市場でも日経平均株価が650円近く値を下げる場面があった。ただ、2万6000円近辺では値頃感からの買いが入り、結局前日比313円安の2万6386円で取引を終えた。
全体相場は、米インフレや中国経済の不透明感を背景に波乱含みの展開となっており、当面は荒れた値動きが続きそうだ。しかし、こういう場面でこそ、成長テーマに乗る銘柄の押し目を拾うチャンスともなる。なかでも、世界的に重要な政策テーマとなっている脱炭素化の動きはマークしておく必要があり、温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル 」達成に向けた取り組みのひとつとしてグローバル規模で加速しているのが自動車の電動化だ。既に欧州や中国では電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)が急速に普及しており、国内自動車メーカーが競争力を維持・強化するためには電動車の心臓部である蓄電池 やモーターの更なる性能向上が欠かせない。株式市場での注目度は依然として高く、改めて関連銘柄に注目してみた。
●NEDOが開発プロジェクトに着手
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は19日、グリーンイノベーション基金事業の一環として「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクト(予算総額1510億円)に着手すると発表した。グリーンイノベーション基金は政府が2020年12月に策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を受け、企業の野心的な挑戦を後押しするために組成されたもの。グリーン成長戦略で実行計画が示された重点分野を支援対象とし、そのひとつが「自動車・蓄電池産業」だ。
「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクトは、カーボンニュートラルの実現に不可欠な電動車の普及拡大に向けて、蓄電池やモーターシステムの性能向上とコスト低減のほか、材料レベルからの高性能化・省資源化、高度なリサイクル技術の実用化などの技術的な課題解決を図ることが主な目的。これにより、電動化を支える技術や産業競争力を強化するとともに、材料やリサイクルを含めたサプライチェーン・バリューチェーンの強靱化を目指すとしている。
●高性能蓄電池・材料の研究開発
同プロジェクトの実施テーマのひとつが「高性能蓄電池・材料の研究開発」だ。航続距離などに影響するエネルギー密度を現在の2倍以上に引き上げる高容量系蓄電池(全固体電池 など)やその材料、コバルトや黒鉛といった特定の国や地域に依存する材料の使用量低減につながる代替材料、材料の低炭素製造プロセスなどの開発に取り組むとしており、既に実施予定先が発表されている。
大阪ソーダ <4046> [東証P]は「全固体電池用超高イオン伝導性ポリマーの開発」を担う。全固体電池は電解質に可燃性材料を使用しないため従来の液体電解質に比べて安全性が高く、車載用途への展開が期待されているが、実用化に向けて高容量化による小型軽量化が最大の課題となっており、充放電の際に電極材料の大きな体積変化によって生じる高容量系活物質と固体電解質との界面におけるリチウムイオンの移動抵抗の上昇を抑える必要がある。そこで、同社は次世代負極(シリコン、リチウム金属)のデメリットである体積変化を緩衝する素材開発及び製造技術の確立を目指している。
三洋化成工業 <4471> [東証P]の関係会社であるAPB(東京都千代田区)は「高容量全樹脂電池の開発」を進める。全樹脂電池は活物質に樹脂被覆を行い、樹脂集電体に塗布することで電極を形成しており、高い異常時信頼性とエネルギー密度を実現。また、樹脂で構成しているため電極の厚膜化が容易にでき、セルの大型化も可能なことから形状自由度が高いことも特長だ。同プロジェクトでは正極材や負極材、樹脂の性能向上などを通じ、高容量の全樹脂電池の開発に取り組むという。
ジーエス・ユアサ コーポレーション <6674> [東証P]は「先進固体電池開発」を担当する。開発項目は、高いイオン伝導度と優れた耐水性を兼ね備えた固体電解質の開発、コバルト含有量が少ない高容量正極開発、長寿命かつ高容量を有する負極開発、大量生産を可能にするセル設計・製造プロセス開発など。同社はこれまで独自開発の高性能な固体電解質を生かして全固体電池の開発に取り組んできたが、グリーンイノベーション基金を活用することで早期実用化につなげる構えだ。
このほかでは、出光興産 <5019> [東証P]が「硫化物系固体電解質の量産技術開発」、住友金属鉱山 <5713> [東証P]が「次世代蓄電池用高性能正極材料の開発と実証」、アルバック <6728> [東証P]が「次世代蓄電池向けリチウム金属負極生産技術開発」、パナソニック ホールディングス <6752> [東証P]傘下のパナソニック エナジーが「次世代蓄電池の開発」、日産自動車 <7201> [東証P]が「全固体電池パイロットラインによる高性能・低LCA(ライフサイクルアセスメント)バッテリー生産のプロセス確立」、マツダ <7261> [東証P]が「次世代高容量高入出力リチウムイオン電池の開発」、ホンダ <7267> [東証P]が「次世代全固体電池の開発」を目指す。
●蓄電池リサイクルの関連技術開発
実施テーマの2つ目が「蓄電池のリサイクル関連技術開発」で、蓄電池材料として再利用可能な品質及び競争力のあるコストで、リチウム70%、ニッケル95%、コバルト95%以上を回収可能なリサイクル技術を開発する。
関東電化工業 <4047> [東証P]は、住友鉱とともに「蓄電池リサイクルプロセスの開発と実証」を行う。関電化のリチウム回収技術と住友鉱の非鉄金属製錬技術を用いて、使用済みリチウムイオン電池などの二次電池から銅、ニッケル、コバルト、リチウムを回収し、水平リサイクルする事業の創出・拡大を目指す。
ENEOSホールディングス <5020> [東証P]子会社のJX金属は、「クローズドループ・リサイクルによる車載リチウムイオン電池の再資源化」を提案し、採択された。これは将来大量発生する使用済みリチウムイオン電池から高純度のレアメタルを高効率で回収し、再び同電池の原料としてサプライチェーンに供給する仕組みを構築するもので、大学や公的研究機関と連携して技術開発を進めるとしている。
東京電力ホールディングス <9501> [東証P]と中部電力 <9502> [東証P]が折半出資するJERA(東京都中央区)、及び住友化学 <4005> [東証P]は「リチウムイオン電池の低環境負荷型リサイクルプロセスの開発」を担う。このプロジェクトで、JERAは非焙焼方式の電池材料分離回収プロセスの開発・実証を行い、住友化はJERAが分離回収した正極材を金属に戻さずに再生するダイレクトリサイクル技術を確立する。また、正極材の性能をリサイクル前と同等以上に改善するアップサイクル技術についても開発する計画だ。
●モーターの高効率化・高出力密度化技術開発
実施テーマの3つ目は「モビリティ向けモーターシステムの高効率化・高出力密度化技術開発」で、モーターシステムの高効率化や小型・軽量化、パワー向上に向け、材料やモーター構造、インバーター、冷却技術などの革新技術を開発する。
愛知製鋼 <5482> [東証P]は「小型・軽量・省資源型、高効率電動アクスルの開発」を進める。同社は既にジスプロシウム(Dy)フリーボンド磁石と鍛鋼一貫技術を生かした高性能ギア鋼材により、高速回転・高減速の次世代電動アクスルの技術実証に成功しており、このプロジェクトでは更に高い出力密度と高効率に進化させる。
日本電産 <6594> [東証P]が提案した「革新的な誘導モーター開発による低価格・省資源・高性能トラクションモーターの実用化」も採択されている。同社は磁石フリーモーターの開発に着手し、誘導モーターのポテンシャルと革新的な技術の融合により、高出力密度化及び高効率化を実現するとともに、社会実装の実現を図るため価格競争力のあるトラクションモーターを創り上げる計画。その実現に向けモーター、インバーター、ギア、生産技術の各分野で豊富な研究実績を誇る大学との共同研究を実施するという。
これ以外では、大同特殊鋼 <5471> [東証P]と東北特殊鋼 <5484> [東証S]、日立製作所 <6501> [東証P]が「高効率電動化システム開発」、デンソー <6902> [東証P]が「モビリティ向けモーターシステムの高効率化・高出力密度化技術開発」を担当する予定となっている。
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