世界株暴落の予兆、レッドシグナル点灯前夜の東京市場に見えたもの <株探トップ特集>
―利上げドミノで逆回転を始めた歯車、半導体関連株からの資金逃避に要注意―
週末17日の東京株式市場はリスクオフが加速する展開となり、日経平均株価は一気に2万6000円台を割り込み、一時下げ幅は700円を超え2万5700円台まで水準を切り下げる場面があった。その後は空売り筋の買い戻しが利いて下げ渋り、取引終了時点では前日比468円安の2万5963円で着地、プライム市場全体で値下がり銘柄数も1447と全体の8割弱にとどまった。しかし、爪痕は深い。この日の新安値銘柄はプライム市場だけで250銘柄を超え、3市場合計では500銘柄近くが年初来安値をつけるという悲観ムード一色に染められた地合いだった。
●NYダウがついに3万ドル大台割れ
前日は欧州株市場が全面安商状となり、ドイツや英国、イタリア、オランダなどの主要株価指数の下落率は軒並み3%を超えるなど下げも大きかった。一方、米国株市場ではNYダウが一時900ドルを超える下落となり、終値でもフシ目の3万ドル大台を割り込んだ。3万ドルを下回るのは2021年1月以来、1年5ヵ月ぶりのことである。更に、ハイテク株への売りがかさんだことで、ナスダック総合株価指数の下げ幅は一時500ポイントを上回り、下落率は5%に迫る場面もあった。
個別ではスマートフォンのアップル<AAPL>が4%安に売り込まれたが、これはまだ良い方で、半導体製造装置トップのアプライド・マテリアルズ<AMAT>が8%安、電気自動車(EV)大手のテスラ<TSLA>は8.5%安、ゼネラル・モーターズ<GM>やフォード・モーター<F>といった大手自動車メーカーも8%超の急落を余儀なくされるなど、時価総額上位の主力株への売りが噴出した。
●FRB0.75%利上げ強行の波紋
米国をはじめ世界的にインフレ懸念が高まっている。そうしたなか、今週は15日公表のFOMCの金融政策に世界の耳目が集まっていたが、FRBは0.75%という通常の3倍となる異例の利上げを発表した。マーケットは事前の観測報道などでこの荒療治を既に織り込んでいたため、同日の米国株市場では、NYダウなど主要株価指数は揃って大きく上昇した。しかし、これは市場心理が強気に傾いたということではなく、疑心暗鬼の塊と化している買い方の傍らで、売り方による単発的なショートカバーによる浮揚力が働いたに過ぎなかった。
実際にこのFOMC当日(15日)のNYダウの値動きを追ってみると、一時は売りが優勢でマイナス圏に沈む場面もあった。パウエルFRB議長が会合後の記者会見で「0.75%の利上げは一般的ではない」とコメントし、0.75%引き上げが恒常化することはないとのニュアンスを伝えたことが、空売り買い戻しの引き金となったが、「この時にダウが瞬間3万1000ドル台まで駆け上がった場面は実需筋にとっては絶好の逃げ場であった可能性が高い」(中堅証券ストラテジスト)とする。その翌日には急転直下で3万ドル大台を割り込むという展開を多くの投資家は想定していなかったはずだ。
●スイス中銀15年ぶり利上げで変わる潮流
前日は東京市場の取引終了後にスイス国立銀行(中央銀行)が15年ぶりとなる政策金利引き上げに動いた。世界的な金融引き締めの流れのなかで、予想されないことではなかったが、「このタイミングで政策金利を0.5%引き上げたこと、そして更なる追加利上げのシナリオにも言及したことはサプライズ感があった」(生保系エコノミスト)という。0.5%引き上げた時点でも政策金利はマイナス0.25%と水面下にあるが、今後はマイナス金利解消に向かう可能性が高くなった。
このスイス中銀の15年ぶりの利上げは米国株市場の動向とも密接な関係がある。市場では「低金利国通貨であるスイスフランで調達したキャリートレード絡みの手法で米国株を買うという資金の流れが観測されていた。今後はこの手法も見直しが迫られ、米株市場にとって下り坂がきつくなる恐れがある」(中堅証券ストラテジスト)とする。つまりこれまでは、下り坂に差しかかっていても車輪止めが利いていたが、それが外れることによって、下げ足が徐々に加速していくという見方だ。
スイス中銀の利上げ発表後に行われたイングランド銀行(英国中銀)の金融政策会合でも0.25%の利上げが発表された。こちらは5会合連続となる。マーケットの関心は超タカ派に変貌したFRBの一挙一動に集中しがちだが、もはや世界的な利上げドミノ状態に入っていることを認識しなければならない。インフレを抑制するために背に腹は代えられないという状況にあり、そのため世界景気の急減速は回避できず、米国でもリセッション懸念が改めて強まることを覚悟せざるを得ない局面だ。
●半導体関連セクターは要警戒局面に
では、個別企業のファンダメンタルズはどうか。投資家がもっとも関心が高いのは半導体セクターの収益環境と株価がどうなるかであろう。これについても、足もとでにわかに雲行きが怪しくなっている。市場関係者によると「韓国ではサムスンが過剰在庫を理由に関係各社に電子部品の納入を遅らせるように要請していることが伝わっている。スマートフォンやテレビの売り上げの低迷が背景にある」(ネット証券マーケットアナリスト)という。半導体については需給逼迫が言われ続けてきたが、気がつけば個人消費減速のあおりで、高額商品が売れず、需給がダブつく状況に陥っている可能性が否定できない。
きょうの相場では東京エレクトロン <8035> [東証P]やレーザーテック <6920> [東証P]の下げの大きさが目立った。直近の大幅な調整を受け、値ごろ感から信用取引を活用して買い向かった個人投資家も多かったようだが、「リバウンド局面では早めにキャッシュ化した方が無難。今年の夏場から秋口にかけて更に大きく下放れる懸念が大きい」(同)と警鐘を鳴らす。
●レブロンの破産は負の連鎖の入り口か
そして、前日はもう一つ大きな“事件”があった。米化粧品会社レブロン<REV>の破産法申請である。同社は口紅やマニキュアで実績が高い名門企業だが、いうまでもなくコロナ禍でマスク着用が常態化したことで、収益環境が急激に悪化し、サプライチェーン混乱による影響が追い打ちをかけ経営が立ち行かなくなった。1930年代前半の大恐慌のさなかに創業された会社であり、世界経済のリオープンが意識され始めたこの時期に倒産するというのは何か暗示的ではある。
このレブロン破産について市場では「推定負債は現状で把握できないが、リーマン破綻のような衝撃はない。ただし、今後はこうしたリオープンが本格化する前に力尽きて倒産するような会社が相次ぐ可能性があり、負の連鎖には注意が必要となる」(前出の中堅証券ストラテジスト)とする声も出ている。
●「日本株の時代」という強気論は通用する?
きょうは日銀の金融政策決定会合の結果発表が行われ、東京市場ではその前後に思惑が錯綜した。現状維持(超緩和策継続)はほぼ間違いないとみられていたが、「直前のスイス中銀のサプライズ利上げの余韻が残っていただけに、何かしら政策変更のサジェストがあるのではないか、という思惑もあった」(生保系エコノミスト)という。具体的には10年債利回りの変動許容幅を0.25%から0.3%に広げるといった、円安対応を念頭に置いた動きである。しかし今回も、筋金入りのハト派姿勢を貫いてきた黒田日銀総裁のスタンスには微塵の変化もなく、これが後場に入って日経平均が下げ渋る背景となった。
日本株が相対的優位な立場にあるとすれば、それは現在の利上げドミノの波に日本だけが呑まれていないということが挙げられる。しかし、今のようなインフレ下の経済失速というスタグフレーションの足音が聞こえる段階では、そうした日本買いのシナリオに現実味が帯びる可能性は低そうだ。日本もインフレと無縁ではない。ガソリンなどのエネルギー価格高騰に加え、秋口以降は食品価格の値上げが物価上昇圧力として本格化する。輸入コスト増大をもたらす円安進行を放置できないムードが強まれば、大規模金融緩和という呪文で守られた鉄壁の牙城が崩される日も、いずれ訪れることになる。
株探ニュース