「ノーベル賞」発表目前、注目の研究テーマと関連銘柄を総ざらい <株探トップ特集>
―研究者の快挙を事業成長へ変える恩恵企業を厳選、発表直後の急騰劇を先取りへ―
毎年10月に発表される「ノーベル賞」の受賞者発表が今年も目前に迫ってきた。今年のノーベル賞の発表は、10月5日の生理学・医学賞を皮切りに、6日に物理学賞、7日に化学賞、8日に文学賞、9日に平和賞、12日に経済学賞というスケジュールで行われる。
これまでにノーベル賞を受賞した日本人は1949年の湯川秀樹氏(物理学賞)を皮切りに、米国籍も含めて31人(団体を含む)が受賞した。2025年は生理学・医学賞の坂口志文氏、化学賞の北川進氏によるダブル受賞という快挙に日本中が沸いたが、26年もノーベル賞の「登竜門」とされる国際的な賞での快挙や新たな評価が相次いでおり、日本人受賞への期待が俄然高まっている。
科学技術の最前線を切り拓いた功績を称えるこの国際的イベントは、株式市場においても技術革新への関心を一気に高める一大カタリストとなる。それだけに、市場の思惑が最高潮に達する前に、先回り買いの機会を丁寧に見極めていきたい。
●生理学・医学賞ではラスカー賞受賞テーマに注目
生理学・医学賞においては、今年は何と言っても、米ラスカー賞を受賞した日本発のテーマが注目されている。
「ラスカー賞」とは、米国で最も権威がある医学賞の一つで、ノーベル賞の登竜門ともいわれる。今年は9月9日に、米ラスカー財団から発表され、基礎医学部門に筑波大教授の柳沢正史氏、臨床医学部門に中外製薬 <4519> [東証P]の服部有宏氏、井川智之氏、北沢剛久氏の3人が選ばれた。
柳沢氏は1998年の米テキサス大学在籍時に脳内のたんぱく質「オレキシン」を発見したことで知られている。発見当初は食欲に関わると考えていたが、研究を進めるうちに「オレキシン」が覚醒系の神経を活性化し、目覚めの状態を保つことを突き止めた。成果として、睡眠薬やナルコレプシーの治療薬として実を結んでおり、武田薬品工業 <4502> [東証P]はオレキシン欠乏を標的とした世界初のナルコレプシータイプ1治療薬 「オーゼイフル」(一般名オベポレクストン)について今年8月、日本における製造販売承認を取得している。また、オレキシンに関してはイーライ・リリー<LLY>子会社のセンテッサ・ファーマシューティカルズと選択的オレキシン2受容体(OX2R)作動薬に関して開発を進めているネクセラファーマ <4565> [東証P]や不眠症治療に用いられるオレキシン受容体拮抗薬「デエビゴ」を展開するエーザイ <4523> [東証P]にも注目。更に、不眠障害治療用アプリのサスメド <4263> [東証G]などにも思惑的な物色が向かう可能性がある。
一方、中外薬の服部氏ら3氏の受賞は、血友病Aで欠乏する血液凝固第8因子の機能をバイスペシフィック抗体で代替する、新たな 創薬コンセプトの実現が高く評価されたもの。血友病は血液中の血を固めるたんぱく質「血液凝固因子」が働かず、出血が止まらなくなる病気だが、12種類ある凝固因子のうち第8因子が欠損している場合は血友病A、第9因子が欠けている場合は血友病Bと分類される。服部氏らの研究は第8因子そのものを補うのではなく、その働きを抗体で代替するという新しい発想で、その成果が同社の血友病A治療薬「ヘムライブラ」(一般名エミシズマブ)につながっている。
ラスカー賞に関連しては、14年に基礎医学部門の受賞者に選ばれた森和俊氏の研究にも注目したい。細胞内の小胞体で不要・異常なたんぱく質を修復・除去する「小胞体ストレス応答」のメカニズムを解明し、 糖尿病やパーキンソン病など多くの病気の治療法の開発に貢献した。国内では坪田ラボ <4890> [東証G]とロート製薬 <4527> [東証P]が小胞体ストレス応答に着目して近視進行を抑制する点眼薬の開発を進めている。
●クラリベイト引用栄誉賞を受賞したGLP-1に注目
また、英調査会社のクラリベイト<CLVT>が発表する「クラリベイト引用栄誉賞」も注目されている。同賞もノーベル賞受賞を予測するものではないものの、ノーベル賞級の研究成果を表彰するもので、選出開始以降89人の受賞者が後にノーベル賞を受賞していることから「ノーベル賞の登竜門」として知られている。
現地時間9月17日に発表された26年版で特に注目されたのが生理学・医学部門で受賞したダニエル・J・ドゥルッカー氏、イェンス・ユール・ホルスト氏、スヴェトラーナ・モイソフ氏によるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)医薬品の基盤となった科学的発見で、GLP-1受容体作動薬の実用化を可能にし、世界中の糖尿病や肥満患者の治療に大きな変革をもたらした。国内企業では、中外薬がロシュグループの一員として持続性GLP-1/GIP受容体作動薬「CT-388」の日本における独占的開発権・販売権を取得しており、次世代製剤の開発を進めている。
また、クラリベイト引用栄誉賞の生理学・医学部門に関連しては、25年に寒川賢治氏、児島将康氏が摂食やホルモン分泌を調節する成長ホルモン分泌促進ペプチド「グレリン」の発見で受賞したほか、21年には岸本忠三氏、平野俊夫氏が「インターロイキン-6」の発見とその生理的・病理的作用機序の解明で受賞している。
「グレリン」に関しては、小野薬品工業 <4528> [東証P]がスイス企業から導入したがん悪液質治療を対象としたグレリン受容体作動薬「エドルミズ」(一般名アナモレリン塩酸塩)を展開している。がん悪液質とは、がんの進行に伴って出現する筋肉量の持続的な減少を特徴とする病態で、「エドルミズ」は体重や筋肉量の増加、食欲の増進などに効果があるという。また、ラクオリア創薬 <4579> [東証G]は創薬パイプラインにグレリン受容体作動薬「RQ-00433412」を有しており、こちらも注目したい。
●物理学賞ではOLEDやネオジム磁石に注目
26年のクラリベイト引用栄誉賞では、九州大学教授の安達千波矢氏が物理学部門で受賞したことも忘れてはならない。これまでに日本人が受賞したノーベル賞のうち、受賞者数が1番多いのが物理学賞、次いで化学賞であることから物理学賞への関心はとりわけ高い。安達氏はスマートフォンやテレビなどに広く採用されている有機EL(OLED)において、熱活性化遅延蛍光(TADF)を用いた有機発光材料の分子設計指針を確立し、希少金属を使用しない高効率のOLEDの実現に道を拓いたことが評価された。
安達氏がセンター長を務める最先端有機光エレクトロニクス研究センターでは、有機光エレクトロニクス材料やデバイスの評価を行うために浜松ホトニクス <6965> [東証P]製品が使われていることから同社が関連銘柄とされる。また、他のOLED関連銘柄として電子輸送材料や発光材料などを手掛ける保土谷化学工業 <4112> [東証P]やOLEDディスプレー製造用メタルマスクを手掛ける大日本印刷 <7912> [東証P]などに思惑が向かう可能性も高い。
07年に「カーボンナノチューブの先駆的な研究」でクラリベイト引用栄誉賞(当時はトムソン・ロイター引用栄誉賞)を受賞した飯島澄男氏の存在感も依然として大きい。飯島氏は炭素原子が筒型となった「カーボンナノチューブ(CNT)」を発見したことで知られているが、CNTは鋼鉄の数十倍の強さと優れた導電性、熱伝導性・耐熱性を持つナノ素材で、次世代電池材料や半導体の性能向上に不可欠とされている。高品質な単層CNTの量産技術を世界に先駆けて確立した日本ゼオン <4205> [東証P]をはじめ、CNT関連製品を手掛けるGSIクレオス <8101> [東証P]、類似の構造体を持つ「VGCF」を展開するレゾナック・ホールディングス <4004> [東証P]などにも物色が波及しそうだ。
また、ノーベル物理学賞候補としてよく名前の挙がるのが、世界最強級の永久磁石「ネオジム磁石」を発明し、22年に「工学界のノーベル賞」とも言われるエリザベス女王工学賞を受賞した佐川眞人氏だ。ネオジム磁石はスマホや電気自動車(EV)の駆動モーター、風力発電機までさまざまな分野で小型・高効率化を支える必須技術となっており、同氏が顧問を務める大同特殊鋼 <5471> [東証P]が関連銘柄として挙げられる。
●化学賞ではペロブスカイトが世界の注目を集める
前述のように、これまでに日本人が受賞したノーベル賞のうち、受賞者数が2番目に多いのが化学賞だが、同分野で本命の一角として世界の注目を集め続けているのが、17年に「ペロブスカイト材料の発見と応用」でクラリベイト引用栄誉賞を受賞した宮坂力氏だ。
宮坂氏はペロブスカイト材料を、世界で最初に太陽電池に応用した人物だが、株式市場でも度々話題に上るこのペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン型では設置が難しかったビルの壁面や耐荷重の小さい屋根、更には窓ガラスなどへの設置を可能にする次世代型太陽電池。高市早苗政権が掲げる戦略17分野の資源・エネルギー安全保障とGX(グリーントランスフォーメーション)の重要技術としても位置づけられており、いわばGX国策戦略の目玉として社会実装が急ピッチで進められている。関連銘柄としては、主原料であるヨウ素で世界有数の供給企業である伊勢化学工業 <4107> [東証S]、K&Oエナジーグループ <1663> [東証P]をはじめ、フィルム型ペロブスカイトの量産化でトップを走る積水化学工業 <4204> [東証P]などに注目したい。
また、24年に「水分解用光触媒と太陽光水素製造システムの構築に関する基礎研究」でクラリベイト引用栄誉賞を受賞した堂免一成氏も注目されている。堂免氏はグリーン水素の研究を行っており、太陽光を利用した水分解による水素製造技術に焦点を当て、粉末光触媒と反応システムを用いて、水を酸化還元反応により分解し水素を生成する技術を確立した。直接的な関連銘柄ではないものの、独自技術で光触媒の開発を進めるデクセリアルズ <4980> [東証P]や、同社同様に人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)の人工光合成用触媒開発に参画するフルヤ金属 <7826> [東証P]などが注目される。
もちろん、今年クラリベイト引用栄誉賞を受賞した研究も忘れてはならない。26年の同賞化学分野では自己組織化単分子膜(SAMs)の研究で現代のナノテクノロジー、バイオセンサー、分子エレクトロニクスの基礎を築いたデイビッド・L・アララ氏、ラルフ・G・ヌッツォ氏、ヤコブ・サギヴ氏が選出された。分子が自発的に秩序立つこの技術は、医療診断装置や耐腐食コーティング、高感度の化学・生物学的センサーなど、幅広い分野での応用を可能とし、バイオセンサーや微細半導体の界面制御に不可欠となっている。そのためレジストや表面処理材料を扱う企業との関連が深く、東京応化工業 <4186> [東証P]や、信越化学工業 <4063> [東証P]などが関連銘柄として思惑が波及しそうだ。
このほか、毎年のように受賞予想が取りざたされる村上春樹氏をはじめとする日本人作家がノーベル文学賞を受賞した場合、三洋堂ホールディングス <3058> [東証S]、丸善CHIホールディングス <3159> [東証S]など書店株に物色の矛先が向かうことが予想される。
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