明日の株式相場に向けて=AI脅威論の裏で躍動する株高の力学
週明け5日の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比1637円高の6万9946円と大幅反発。前週末の米国株市場では9月の米雇用統計が事前予想を大きく下回った。非農業部門の雇用者数は2万9000人増と事前コンセンサスの8万4000人増を大幅に下回ったほか、失業率の方は4.2%と予想を上回り、平均時給の伸びは前月比0.1%増で想定を下回った。すべて、米景気の減速を示唆するもので、これに伴い一時9割近い確率まで織り込まれていた10月及び12月FOMCでの連続利上げの可能性が大きく後退した。今は年内あと1回、12月会合での利上げがメインシナリオとなっている。今回は「バッドニュースはグッドニュース」で米株市場はポジティブに反応したが、「米景気はそれでも盤石」と強弁することは難しくなりつつあり、ウォーシュFRB議長にとって、ソフトランディングに向けた舵取りは難度を高めている。
そうしたなか、AI脅威論が一段とかまびすしい。米アンソロピックのCEOであるダリオ・アモデイ氏が本格的に経営者レベルの議論として俎上に載せたが、イーロン・マスク氏やサム・アルトマン氏などがこれに同調。トランプ米大統領は「デマだ」と斬って捨てたが、その見解は今や完全なマイノリティーに属する。しかし、既にパンドラの箱は開かれた状態で、後戻りはできないことを誰もが理解している。現時点で11月中旬以降の上場が見込まれているアンソロピックだが、同社の目論見書の本文261ページのうちおよそ3分の1に相当する約80ページをAIがもたらすリスク要因に充て、事業説明のページ数の倍近くに達したことが報じられた。つまり、新規株式公開というスポットライトを浴びる場面を利用して、AIの開発速度に合わせたセキュアな環境を確保する努力は絶対に怠れないことを世界に強く訴えた、とみることもできる。
AIの開発は軍拡競争の新世紀版であって米国も中国も国家的にAI開発の手を緩めることは、安全保障上のリスクを自ら膨張させることになりかねない。「実際水面下で開発を進めても外部からは見えない。AI開発の加速は非常にリスキーだが、だからといって、手を緩めるということは自国にとってもっと危険な状態をもたらすことを政権トップは強く認識している」(国内証券ストラテジスト)と市場関係者も指摘する。世紀末時計のカウントダウンはAIの進化プロセスそのものをカウントしているに等しい可能性がある。ともあれ、株式市場でこのAI・半導体ストームが容易に収まらない以上、投資家もそれを念頭に置いてマーケットと対峙するよりない。
AI関連と半導体関連はもちろん同義ではなく、半導体セクターはあくまでAIインフラ基盤を担うツルハシ銘柄の範疇にある。最近はAIソリューション(DX支援)やコンサルティングを手掛けるソフト側の企業も淘汰の波に揉まれ、実際に業績水準を落とす事例が出てきており、それもあってか半導体や積層セラミックコンデンサー(MLCC)などインフラに必要な「戦略物資」を作る企業に再びスポットが当たっている。米国ではエヌビディア<NVDA>が前週末2日に5月中旬以来約4カ月半ぶりに史上最高値を更新したが、東京市場では同社を主要顧客とする半導体テスター大手のアドバンテスト<6857>が同じく前週末に最高値街道に回帰。両銘柄が見事に足並みを揃えていることも、半導体株復活の号砲を鳴らす暗示的な事象となっている。
半導体関連でもキオクシアホールディングス<285A>が全体相場のリスクオンに乗り切れない動きとなるなど、主力株に跛行色がみられるが、早晩中小型株も含めたリターン・リバーサルの動きにつながっていきそうだ。今の流れはアドテストがキオクシアに代わり売買代金トップ常連に躍り出て、時価総額もキオクシアと再逆転する公算が大きいことを示唆している。そうしたなか、アドテストと同様に半導体の後工程分野であるモールディング装置の世界首位で、相対的に出遅れていたTOWA<6315>の上げ足に弾みがついている。これらの主力どころは「半導体勝ち組インデックス」を買うような感覚に近いが、中小型株も有力な投資対象が開花を始めている。
半導体研磨剤を手掛けるマイポックス<5381>がここ存在感をみせており、目先調整があれば買いで対処したい。また、半導体装置向け直動案内機器(リニアガイド)を手掛ける日本トムソン<6480>は75日移動平均線を回復し、今後戻り足に拍車がかかるか注目される。このほか、AIサーバー向け感光性カバーレイ(PICC)や、省エネ化の切り札となり得る次世代パワー半導体を展開するタムラ製作所<6768>も、波状的な上昇が見込まれ押し目買い対象として有力視される。半導体商社では、丸文<7537>がPERや配当利回りなどバリュエーションの観点で依然割安感があり、時価1900円近辺でのもみ合いは、青空圏への飛翔をイメージして仕込み場に見える。
あすのスケジュールでは、前場取引時間中に10年物国債の入札が行われるほか、9月の輸入車販売(日本自動車輸入組合=JAIA)、9月の車名別新車販売(自販連)、9月の軽自動車販売(全軽自協)などが発表される。また、日銀の植田和男総裁が全国証券大会で挨拶を行う。なお、この日は定例閣議が行われる。海外では8月のユーロ圏小売売上高、8月の米貿易収支が開示され、米3年物国債の入札も行われる。また、ウィリアムズNY連銀総裁がディスカッションに参加するほか、ボウマンFRB副議長の講演も予定されており、複数のFRB高官の発言機会に耳目が集まりそうだ。なお、この日は中国市場(上海・深セン)が休場となる。(銀)