概要・株価
チャート
ニュース
かぶたん ロゴ
PR

「コアウィーブ・ショック」で見えたリスク波及経路、リーマンとの違いは<伊賀大記のクロマなマクロ展望>

市況
2026年10月23日 14時30分

「コアウィーブ・ショック」が発生し株価が急落した。10月15日の日経平均株価は前日比3318円下落し歴代3位の下落幅を記録。23日の東京市場では一時6万2000円を割り込み、およそ3カ月ぶりの安値圏で推移している。更なるリスクオフやショックが今回と同じルート(経路)で発生するとは限らないが、「リーマン・ショック」との違いなどを整理して頭に入れておくことで今後に備えたい。

<第1段階:インフレ懸念の強まり>

リスクルートの起点はインフレ懸念だ。「コアウィーブ・ショック」は、10月14日に発表された9月米消費者物価指数(CPI)の上振れがきっかけとなった。コア指数で0.1%ほど市場予想を上回っただけだったが、鎮静化していた10月の米利上げ観測が一気に高まった。

今回はCPIだったが、インフレ懸念が高まる要因は、個人消費支出(PCE)や生産者物価指数(PPI)など別の物価指標のこともあるだろうし、その手前の原油価格の高騰がきっかけになる場合もあるだろう。更に、その手前の中東における地政学リスクの高まりでインフレ懸念が強まることもあり得る。

ポイントは、そのときの市場のインフレ懸念の程度だ。元々、インフレ懸念が強い状態で、物価指標が少々上がっても、今回ほどの影響はない可能性は高い。インフレ懸念が後退しているような場合に、小さくてもサプライズがあると市場は大きく反応する。

少々上振れした程度の9月の米CPIに大きく反応した理由の一つは、市場のインフレ懸念が和らいでいたことがある。米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は10月13日、インフレ率は時間をかけて米連邦準備制度理事会(FRB)の目標である2%に向かって鈍化していくと予想したうえで、2027年に再び利上げする必要があるとは考えていないと発言していた。

こうしたところに、CPIの上振れが示されたことで、投資家の中にくすぶっていたインフレ懸念が堰(せき)を切ったように強まったとみられる。

<第2段階:金利が上昇、低下しても理由に注意>

リスクルートの次の段階は金利だ。インフレ懸念が高まったとしても金利が上昇しなければ、大きな危機はまず発生しないので、何かが起きた場合、金利が反応するかどうかをチェックする必要がある。

金利が上昇する場合は、早期の利上げ観測が高まるような局面だ。これもインフレ懸念と同様、そのときのマーケットで米利上げ観測が高まっているかどうかで反応が異なるだろう。つまり、投資家として警戒しなければならないのは、米利上げ観測が高まっているときではなく、後退しているとき、ということになる。

金利が上昇しなかったとしても警戒を怠ることはできないケースもある。例えば、AI産業への不安から景気下押し圧力が強まれば米利上げ観測が後退するが、これは株式市場にとってはネガティブな要因を含む。米利上げ観測の後退自体はポジティブだが、景気減速は企業の業績悪化を想起させるためだ。

金利低下自体のプラス面と、その背景にあるマイナス面。どちらの「力」が強くなるかは、ケースバイケースであり、これも株式市場の反応を見るしかない。

また、AI関連株から国債への資金シフトが進むことにより国債の金利が低下(債券価格が上昇)するケースも要注意だ。金利低下自体は株式にとってポジティブだが、資金シフトということは、AI関連株からの資金流出ということになるので、資金調達面に不安がある企業には特に懸念材料になる。足もとのマーケットでは、まさにそうした資金シフトによる金利低下と株安の同時進行が起きていると言えよう。

<第3段階:資金調達力が弱いAI関連企業の社債や株価が下落>

第3段階は、資金調達力が弱い企業の社債価格や株価の急落だ。金利が上昇した場合、企業の資金調達コストが上昇する。実際に資金繰りが厳しくなるかどうかはともかく、市場は先んじるかのように、そうした資金調達能力が弱い企業の債券や株式を売却する行動を取りやすい。

今回ショックの震源地となったコアウィーブ<CRWV>は17年に創業した米国の新興企業。データセンターを構築し、AI開発企業やクラウド大手に計算能力を貸し出す「ネオクラウド」の先駆けとされる。

クラウド(雲の意味)とは、インフラやソフトウェアを持たなくてもインターネットで必要な機能やデータを利用できる仕組み。従来のクラウドがウェブサービスやデータベースなど汎用型であるのに対し、ネオクラウドはAI特化型なのが特徴だ。従来のクラウドだけではまかないきれないAI計算需要を補完していた。

同じクラウドを手掛けるマイクロソフト<MSFT>、アルファベット<GOOG>、アマゾン・ドット・コム<AMZN>など大手のハイパースケーラー(巨大データセンター企業)は、それぞれデータセンター以外の事業からも収益を得られる多角的な事業構造を有しているが、ネオクラウドはほぼAI専業。AI需要によって収益が大きく左右される。

このため信用力も大手のハイパースケーラーに比べ低く、社債の利回りもより高く設定しなければ資金が調達できない。S&Pグローバル・レーティングによるコアウィーブの社債格付けは「B」と投資適格から5段階低いジャンク級だった。

ショックが起きて金利が上昇した場合、こうしたAIセクターで一番弱いところが狙われやすい。更にそれが他の関連株にも波及し、マーケット全体にリスク回避の売りが広がるのが第4段階になる。

<リーマン・ショックとの違いは>

AI企業の業績鈍化はそれほど心配ないだろう。新しいテクノロジーによる新産業が発展する際は、その途中で価格競争や過剰設備問題が起きて、それまでのすさまじい業績拡大のスピードが鈍化するのは、必ず通るプロセスだ。何十%もの増益率がいつまでも続くわけがない。

心配すべきは、業績そのものでなく、お金の部分だ。ハイパースケーラーは、GDP(国内総生産)の何割と言うような、これまで考えられなかったような巨額な資金を必要としている。銀行からの借り入れだけでは足りず、巨額の社債発行も行っている。

インフレ懸念が強まり、金利が上昇すると、資金調達コストは増加し、どこかで資金の目詰まりが起きる可能性が高まる。実際に起きるかどうかはわからないが、市場の懸念が強まればリスク回避の動きが広まる。「コアウィーブ・ショック」が起きたのは、そういう不安が強まったからに他ならない。

08年に発生したリーマン・ショックの正体は信用不安だった。リーマン・ブラザーズの突然の破綻で貸したお金が返ってこないかもしれないという恐怖が広がり、金融機関は資金を引っ込め、企業は運転資金がひっ迫、経済全体が縮小した。こうしたクレジット・クランチを起こさないよう、世界の金融当局はリーマン・ショックの後に、銀行のリスク量を限定するなど対策を打ったが、最近はプライベート・クレジット・ファンドなど、銀行の外で、資金を借りたりするケースが増えてきている。

第5段階は信用不安がマーケットや経済全体に広がる場合だ。今のところ、こうしたリスクは低いが、マーケットの本質は人の心理である。人の心は急変しやすく連鎖しやすい。マネーが過去最大級に膨らんでいる現在であるからこそ警戒は怠れない。

◇伊賀大記(いが・だいき)

金融経済ジャーナリスト。株式専門誌やロイター通信での記者を経て現在フリー。金融市場やマクロ経済に関するトピックをブログ(東京クロマ通信)で配信中。

出所:MINKABU PRESS

人気ニュースアクセスランキング 直近8時間

プレミアム会員限定コラム

お勧めコラム・特集