世界の石油在庫は残りどれだけ取り崩し可能なのか?<コモディティ特集>
イスラエルとイランが再び交戦した。親イランのフーシ派もイスラエル攻撃に加わるなど、一時停戦が揺らいでいる。イランの制止にも関わらずレバノン攻撃を止めないイスラエルに対し、イランがミサイル攻撃を実施したことがきっかけとなり、衝突が激化した。両国の衝突は短期間で終了したが、イスラエルがレバノンの武装組織ヒズボラへの攻撃を執拗に続けるなら、イランは再びイスラエルを攻撃する見通しだ。
イスラエルが混乱の火種となり、米国とイランの戦闘終結やホルムズ海峡の開放に向けた協議を巡って不透明感が強まっている。トランプ米大統領によるとイランとの協議は前進しているものの、4月のイスラマバード会合でも焦点だったレバノン停戦すら実現できていないなかで、交渉がどれだけ進んでいるのか不明である。報道からすると、米国はイランの凍結資産解除についても条件をつけようとしているようで、交渉は初期段階で停滞している可能性すらある。イランは凍結資産を無条件で解除するよう要求している。
●利用可能な石油在庫は6億バレル程度にすぎない
ホルムズ海峡を経由した石油供給がほぼ停止するなかで、世界の石油在庫は減少を続けている。大手金融機関の推計によると、世界の石油在庫は76億バレル程度まで減少しており、このうち自由に利用できる在庫は残り6億バレル程度とみられている。製油所やパイプラインが操業するうえで取り出すことのできない在庫が存在するほか、貯蔵タンクの一定水準以下の在庫は汲み出すことができないことを考慮すると、統計上の石油在庫はそのほとんどが利用可能ではない。世界の石油在庫が70億バレルを下回ると、供給に負荷が強まるとみられている。
米エネルギー情報局(EIA)週報で、米戦略石油備蓄(SPR)を含む原油と石油製品の在庫は合計で15億7347万バレルまで減少し、2004年以来の低水準を記録した。石油製品や原油の輸出が急拡大しているうえ、米国内の製品在庫を確保するために製油所稼働率は94.7%まで上昇し、原油在庫の取り崩し圧力は非常に強い。世界的な石油在庫は70億バレル付近から自由な取り崩しが困難になるとみられているが、米国の15億7347万バレルの石油在庫のうち、あとどれだけ自由に供給できるのだろうか。
●近づく在庫取り崩しのリミット
イラン戦争の開戦当初、行き場をなくしていた海上の制裁原油がバッファとなって原油高を和らげ、この海上在庫が取り崩された後は、世界最大の産油国である米国の在庫が一方的な値動きを抑制する役割を果たしている。石油不足によって世界経済は痛めつけられているが、取り崩すことが可能な石油在庫がまだ存在することで、辛うじて平静を維持している。ただ、この在庫がなくなっていく過程でショックに備える動きが顕在化し、より大きな衝撃が経済や金融市場にやってくる可能性が高い。2020年4月、コロナ禍のニューヨーク市場で、ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物の当限は1バレル=-40.32ドルまで下落し史上初のマイナス価格を記録したが、貯蔵タンクが満杯となった当時とは正反対の事態へ向かっている。
幸か不幸か、足元の原油相場はやや落ち着いており、石油ショックの回避に必要な需要の大幅な減退があまり期待できない。ホルムズ海峡の封鎖が解除されなければ、供給拡大は期待できず、世界の石油在庫は減少するしかない。容易に取り崩すことが可能な在庫が乏しくなったとき、買い手は売り手の言いなりとなるだろう。ホルムズ海峡を通じた供給が正常化しないならば、世界経済にとって7-9月期が修羅場となりそうだ。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
株探ニュース