明日の株式相場に向けて=AI革命の理想とメモリー市況の現実
週明け3日の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比607円安の6万3754円と3日ぶり反落。前週末31日に外国為替市場で15年ぶりとなる日米協調介入が実施され急速に円高方向に振れた。“円買い”協調介入としては28年ぶりという。これまでの過激な円安局面で自動車や半導体関連セクターなどの買い材料に挙げられてこなかったにもかかわらず、足もとの円高を警戒というのもおかしな話で、前週末の2500円弱上昇した反動を考えれば600円程度の下げは、息継ぎのようなものと捉えることができる。
それよりも、きょうは前週末の決算発表を受けたキオクシアホールディングス<285A>が、どういう値動きをするかに投資家の視線が集中した。キオクシアの26年4~6月期は最終利益段階で前年同期比46倍となる8421億6500万円であった。AIデータセンター向けSSD用NANDメモリーが高水準の需要を獲得し、利益の強烈な伸びに反映された。しかし、これでも事前の市場期待の高いハードルを越えられず、株価を突き上げるカタリストとしては力不足であった。四半期決算ベース換算ではあるが、確かにPER6倍台は割安という判断は働く。だが、これはいつか見た風景でもある。コロナ禍で運賃市況が高騰し、利益水準を爆発的に切り上げた海運株大手3社が今のキオクシアにオーバーラップする。海運大手は、当時いったんは株価を暴騰させたが、その後はPERがどんなに割安でも株価急反落に歯止めがかからなかった。ほどなくして市況高の恩恵が剥落し業績が急速に悪化するという道筋をたどった。業態は違ってもマーケットはキオクシアを海運同様にシクリカル産業の典型として見ているようだ。いずれ株価の先見性がキオクシアの業績に投影される時が来ることが暗黙のコンセンサスとして横たわる。メモリー市況の高騰はAI革命が進行してもやはり一時的であると踏んでいる。
キオクシアは短期的には買い戻しで反発を繰り返しても、戻り売りが控えており、トレンドとして上値切り下げ型から脱却できていない。直近売り抜けた米ベインキャピタルのような大口の買い主体が登場しない限り、今後も自然体での戻りは限定的と思われる、というのが常識的な見立てだ。ただし、今回の決算発表では株式需給面で大きな変化があった。1対3の株式分割は事前に織り込まれていた面があり、どうということはないものの、最大8000億円の自社株買いについてはサプライズといってよい。金額で8000億円といっても全体株式の5.5%に過ぎないという見方もあるが、浮動株ベースでみると2割程度に相当する。机上の試算だが、ベインの直近保有株14%相当の売却分に対して余裕を持った受け皿として機能する可能性が高い。これは、長い目で見てキオクシアの株価浮揚に向けた大きな踏み台となり得るものだ。メモリー市況の暗転が先か、自社株買いによる株価吸引効果の方が先に反映されるか、これについては今後を注意深く監視していく必要がある。
半導体関連は一斉に買われたり、一斉に売られたりする時間軸からは脱した感もある。きょうはキオクシア以外の銘柄に目を向けても跛行色の強さが際立った。アドバンテスト<6857>や東京エレクトロン<8035>は軟調だったが、レーザーテック<6920>は大きく上昇し、ディスコ<6146>も買いが優勢だった。レーザーテックは今週6日が決算発表なので、まさに決算プレーの只中にある時間軸だが、ディスコに関してはファンダメンタルズ面の材料は手の内が晒されたことで作戦は立てやすくなっている。
一方、今回のAI・半導体関連株の波乱の傍らで、国内の消費関連株に芽生えたリターンリバーサルの動きにも着目したい。インフレは一般的にはネガティブだが、株式市場目線では投資資金を誘引するテーマとしてインパクトがある。訪日中国人が減少してもインバウンド需要は健在であることも見直し人気につながっている。デフレマインドからの脱却をテーマに値上げで収益を伸ばせる企業、あるいは低価格路線を維持し、生活防衛関連の観点から収益成長路線を走る銘柄群などに物色の矛先が向かっているのが現状だ。
例えば、高付加価値商品が消費者に受け入れられている良品計画<7453>の好業績はマーケットでも目を引く。同社は海外展開にも積極的だが、国内外でブランド力が浸透している。また、生活防衛関連では既存店売上高の伸長と利益率改善が異彩を放つセリア<2782>の戻り足に拍車がかかっている。100円ショップでは地味ながら、セリアの裏銘柄としてワッツ<2735>も要注目といえるだろう。いずれも足もとドル安・円高方向への急速な揺り戻しは順風材料だが、このほか神戸物産<3038>も同様に見直し余地が大きい。
あすのスケジュールでは、7月のマネタリーベースが朝方取引開始前に日銀から開示されるほか、前場取引時間中に10年物国債の入札が行われる。後場取引終盤には7月の財政資金対民間収支が公表される。なお、この日はIPOが1社予定されており、エブリー<607A>が東証グロース市場に新規上場する。主要企業の決算発表ではイビデン<4062>、日本製鉄<5401>、三菱重工業<7011>、トヨタ自動車<7203>、三井物産<8031>、ソフトバンク<9434>などに注目度が高い。海外では6月の米貿易収支、6月の米製造業受注、6月の米雇用動態調査などに耳目が集まる。米主要企業の決算では、アドバンスト・マイクロ・デバイシズ<AMD>やスペースX<SPCX>にマーケットの関心が高く、このほかマクドナルド<MCD>、アムジェン<AMGN>、キャタピラー<CAT>などが発表予定。(銀)