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武者陵司「サナエノミクス相場はこれからだ」

市況
2026年8月20日 10時00分

―火のない所に煙を立てた日本財務省―

●日本株の大底と天井形成は、財政金融政策と地政学によってピンポイントで決められてきた。現在の日本株式の突出したパフォーマンスは、昨年10月に高市政権成立が確かになったことから始まった。積極的財政政策による日本の潜在成長率押し上げという期待によっている。期待は、6月末に巻き起こった骨太方針と消費税減税への反対の世論の高まりにより一旦萎んだが、高市首相のイニシアチブにより復活し、高市改革の実現可能性が高まった。

●日本経済は2027年以降、成長率が顕著に上昇する時代に入るだろう。(A)来年4月からの食料品に対する消費税減税、(B)急上昇する資産価格による顕著な資産効果、(C)円安と米中のデカップリング(切り離し)による日本国内投資の復活、(D)2040年度までに戦略17分野への370兆円超の官民投資を掲げる「骨太の方針」が本格始動、(E)AI(人工知能)革命と日本半導体投資の大復活、などの好要因が山積している。

●円安進行について疑問が渦巻いている。「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」や「フィナンシャル・タイムズ(FT)」、「エコノミスト(The Economist)」など、世界の大手経済メディアや多くの海外主要エコノミストまでが、きっと日本の財政に大きな欠陥があるに違いないとの憶測に基づき記事を書き募っている。投機筋はミステリーに乗じて円を売り建ててきた。この円安は財務省筋の自作自演に他ならない。「日本の財政赤字は深刻→消費税減税は国難に結び付く→円が暴落する」とのストーリーは、日本の官民連携のキャンペーンに、投機筋が悪乗りして作り上げたものである。しかし、日米当局は円安に耐えられず、協調介入に踏み切った。事ここに至り日本財務省は財政赤字キャンペーンを修正せざるを得ない。それに米国当局が協調介入で協同する。円安投機筋は矛を収めずにはいられないだろう。「日本財政破綻→円急落」シナリオは跡形もなく消えていくだろう。

(1)政治決断が株価上昇の転機をもたらす歴史的場面

骨太の方針の中核となる食料品に対する消費税減税が自民党総務会で正式に認可され閣議決定したことで、高市改革の実現性が大きく高まった。6月末以降、高市政権の経済政策を巡って株価の下落、金利上昇、円安が同時に起こり、市場の見通しについて不透明感が強まっていたが、ここは絶好の投資場面かもしれない。

第二次世界大戦以降の日経平均株価の大転換は、すべて金融・財政政策と地政学によって決定されてきた。これまでに、(a)1950年6月の朝鮮戦争の勃発、(b)1989年12月末のバブルつぶしの金融引き締めによる天井、(c)2003年5月のりそな銀行部分国有化・金融不良債権処理完了による底入れ、(d)2012年11月の大底・解散総選挙から始まるアベノミクス変革の開始の4回があったが、高市政権の成立は戦後5番目の長期トレンド形成になっている。

2012年11月に安倍政権の成立とアベノミクスが確かになったことで、日経平均株価は6カ月で80%上昇した。同様に、高市氏が2025年10月に自民党総裁に就いた後、日経平均株価は8カ月間で60%上昇した。積極財政による成長率の上昇期待、いわばサナエノミクスへの期待が背景にあったと言える。ここ1カ月、財務省・大手メディアなどの減税反対キャンペーンにより、高市氏の積極財政政策が頓挫するとの懸念が高まり、高市氏に対する支持率が低下したが、首相の指導力によりそれは押し返された。

(2)なぜ、積極財政に天の理が備わっているのか

積極財政は、今後の日本の株価にとって決定的に重要である。財政出動が日本の潜在成長率を押し上げ、企業収益の持続的成長を保証するからである。第一の理由は、財政による国民生活の救済が待ったなしであることである。実質家計消費は2012年度末302兆円、2013年度末311兆円に対して、2026年1Q300兆円(2020年基準)と、依然10年前のピークを下回っている。また、日本の経済成長率はG7の中でも最低水準が続いている。最大の需要項目である消費が10年間落ち込んだままだからである。IMF(国際通貨基金)の経済見通し(2026年→2027年)を比較すると、米国2.3%→2.2%、ユーロ圏0.9%→1.2%に対して、日本は0.6%→0.7%と大きく引き離されている。

第二に、税収が大きく増加し、財政余力が高まっている。IMF(2026年4月経済見通し付属データ)の一般政府財政収支対GDPをG7で比較すると、最も経済成長率が低い日本の財政赤字縮小が際立っている。日本の「財政赤字/GDP」は2024年1.67%、2025年1.05%と2年続けてG7最小の赤字となっている。また、2021年以降、税収は当初予算を6~10兆円上回ることが常態化している。税収上振れ額はGDPに対して1.0~1.6%に相当する。加えて、日本政府は巨額の金融資産(対GDP比130%)を保有し、そこには300兆円に上る巨額の含み益がある。

第三に、国民が財政による国民生活支援を強く求めている。先の衆院選挙では新党チームみらいを除くすべての与野党が、消費税減税を公約に掲げた。国民民主党を含む全ての政党はスキームの違いという小異はあれども、減税という大同に従わなければ、国民的支持を大きく失うだろう。

なぜ、税収改善と国民生活の窮状が同時に進行しているのであろうか。それはデフレ経済下で強行された「社会保障と税の一体改革」により、2011年度に38.8%であった国民負担率が2022年度48.4%、2024年度(推)46.2%と急上昇したためである。「社会保障と税の一体改革」により社会保険料の引き上げや消費税増税などが打ち出され、デフレの下でも税の取りっぱぐれがない制度が仕組まれた。

しかし、想定外のインフレになり、税収と企業利益が著しく増える一方、国民生活に打撃を与えた。2014年以降、企業利益2.5倍、株価6倍、税収2倍となる中で、独り犠牲にされている消費を減税で支援するのは当然と言える。これを財政再建ということで政府内に留保すれば、著しい民需の押し下げ圧力となる。

(3)全くのこじつけ、骨太ショック論

減税反対の世論はすさまじかった。骨太の方針の原案が6月30日に提示され、食料品にかかる消費税の1%への引き下げが提起された時、たまたま円安が進行し、長期金利が上昇した。財務省やエコノミスト、主要メディアは一斉に、骨太の方針と消費税減税が財政赤字懸念と日本売りを招いた、これは「骨太ショック」だ、との議論を展開した。減税は日本売りをもたらし、スタグフレーション(インフレ高進と成長率低下)という副作用を引き起こすのでやめるべきだ、という主張である。

しかし、「骨太ショック」とは全くの的外れ議論である。まず金利上昇も円安も、世界的金利上昇とドル高に連動したもので、日本だけの動きではない。むしろ、長期金利は7月後半以降、世界的に上昇が強まっているのに、日本では逆に低下していた。また、4%を超える名目経済成長率の日本においては、3%弱の長期金利は決して問題ではない。日本の名目成長率はG7の中で最も大きく長期金利を上回っている。このように、積極財政批判に根拠がないことは、データを見れば一目瞭然である。

ただ円安は、7月31日に外国為替市場で日米協調介入が実施されるまで止まらなかった。財務省の日本の財政はギリシャ以下というキャンペーンが効きすぎて、日本の財政が健全である事実が覆い隠され、投機筋の日本売りの口実とされてきたのである。この円安を見て、他に原因が見当たらない「WSJ」や「FT」、「The Economist」など世界の大手経済メディアやエコノミストまでが、きっと日本の財政に大きな欠陥があるに違いないと推測し、社説やコラムなどで議論を展開している。例えば、ジリアン・テット氏(注1)は日本経済新聞(2026年8月14日付)にも転載されたFTコラム「全ての視線は円に 日本初の債務危機に現実味」において「円安の最大の要因は巨額の公的債務だ」「最近の利上げで2026年度予算の国債費(注2)は既に約31兆円と歳出全体の4分の1を占める。報道によれば、財務省は3年後の29年度には歳出の約3分の1になると試算している。これは恐ろしい事態だ」と全く的外れの議論を展開している。

まさにスコット・ベッセント米財務長官が師事したジョージ・ソロス氏がかつて主張した「再帰性理論(reflexivity theory)」(注3)、つまり市場心理が悪循環を引き起こすということの種が生まれたのである。円安の原因が日本の財政赤字にあるとの議論が事実ではなくても、国際的に広く受け入れられ続ければ、円安の進行で経済が危機に陥る可能性は出てくる。財務省のプロパガンダが日本売りの原因を作っているとすれば、これは国益を著しく損なう議論である。財務省は高市政権の下でこれまで誇張してきた日本財政危機論を大修正するべきであるし、大修整せざるを得なくなるだろう。

7月31日に15年ぶりの日米協調為替介入が実施され、ドル円レート1ドル=160円前後が、日米政府が許容できる限界であることが示された。トランプ米大統領は「我々は常に日本を支援する。これは友情の証し」と述べている。この介入は成功しドル円レートの天井圏が形成される公算が強い。第一に、これ以上の円安は日米の国益を損なう。第二に、これ以上の円安は経済合理性(購買力平価や金利差)にそぐわない。第三に、日本の財政危機は深刻であるという全く間違った観測を、日本財務省は是正せざるを得ない。投機筋は、当局の強い決意の前に矛を収めるだろう。

(4) 積極財政と資産効果で日本の潜在成長率が高まり、来年中の日経平均10万円が視野に

円安の心配がなくなると、日銀の利上げ圧力も和らぐ。原油価格のピークアウト、円安一巡によりコストプッシュインフレは沈静化する。賃金上昇による物価上昇圧力は残るが、それはむしろ望ましい動きである。日本の財政は健全であり、日本政府には無限の為替介入資金があることを投機家が理解すれば、今度は円高投機が進行する心配もある。下手をすると円高が進みすぎる懸念もあり、日銀は利上げを躊躇するだろう。

米国の断固とした為替介入姿勢は、高市政権への支援になりそうである。骨太ショック批判を封じ、積極経済政策の遂行を容易にする。日本経済は2027年以降、成長率が顕著に上昇する時代に入るだろう。(A)来年4月からの食料品に対する消費税減税、(B)急上昇する資産価格による顕著な資産効果、(C)円安と米中デカップリングによる日本国内投資の復活、(D)2040年度までに戦略17分野への370兆円超の官民投資を掲げる「骨太の方針」が本格始動、(E)AI革命と日本半導体投資の大復活などの好要因が山積している。資産価格の上昇は2009年以降の米国経済回復の主エンジンとなったが、今の日本にもGDP比2倍に上る資産効果が現れているのである。

金利、為替安定化の下で、株価は再び騰勢を取り戻す。日経平均株価は来年中にも10万円に達する可能性が出てきた。

(注1) ジリアン・テット氏は最も日本通とされるジャーナリスト。フィナンシャル・タイムズ(FT)紙で東京支局長、米国版エディター・アット・ラージなどを歴任し、2023年秋からは英ケンブリッジ大学キングス・カレッジの学長

(注2)2026年度予算の中の国債費31.3兆円、内償還費18.2兆円、利払い13.0兆円。利払いのうち半分は日銀への支払いであり、それは政府に日銀納付金として返ってくる。したがって、純然たる財政コストは7兆円、予算総額122兆円に対する比率は6%に過ぎない。テット氏は国債費の3分の2が本来の費用ではない返済額であることを理解していない。

(注3) 人々の認識や行動が現実を変え、その変わった現実がまた人々の認識や行動を変えるという理論。通常、犬(経済実態)が尻尾(株価など市場価格)を振るが、時には尻尾(市場価格)が犬(経済実態)を変えるというフィードバック理論。金融危機の自己実現的崩壊はそうして起こる。

(2026年8月19日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン406号」を転載)

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