【兜町スクランブル】米中間選挙で民主党勝利、「AIブーム」終焉への一里塚か
11月3日投開票の米中間選挙で、民主党が上院・下院のそれぞれで多数派を獲得したと米メディアが相次いで報じた。トランプ大統領のレームダック(死に体)化は避けられない。ハイパースケーラーによるAIデータセンター投資計画に逆風が吹きつけることになる。マーケットにおいても、昨今のAIブームが終焉に向かうとの悲観が強まっており、中間選挙後は株高というアノマリー(過去の経験則)の例外となった2018年の相場のような株価調整リスクに身構える投資家も少なくない。
<選挙情勢で乱高下した日本株>
日本時間4日の東京市場で日経平均株価は一時3000円を超す下げとなり、6万円割れ寸前まで追い込まれた。米中間選挙を巡っては、民主党が過半を握ることが確実視されていた下院に加え、上院についても多数派を奪還するシナリオが事前に指摘されていた。注目された激戦州のアイオワ州、カンザス州、メーン州などでの開票状況が伝わり、民主党が上院で勝利するとの見方が一段と強まるなか、先物売りが加速したものの、民主党が上院で51議席を確保し過半を握ることが確実になったと報じられると、噂で売って事実で買い戻す流れとなり、日経平均は急速に下げ幅を縮小した。終値は前営業日比893円安の6万2188円。激しい振幅をみせた1日となった。チャート上で日経平均は200日移動平均線をサポートラインとして下げ渋る格好となったが、現時点で市場参加者の警戒感が払しょくされるまでには至っていない様子だ。
共和党政権のもとで実施された中間選挙で、民主党が上下両院で過半を獲得したのは2006年以来となる。この年の中間選挙後の日経平均は一時的に下値を探る動きをみせたものの持ち直し、NYダウは好調な企業業績を支えに年末にかけて堅調ぶりを維持した。一方、第1次トランプ政権下で迎えた18年の中間選挙後は、日米株ともに下押し圧力が掛かり、中間選挙後=株高というアノマリーが外れたケースとなった。18年当時は米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ局面にあり、暮れにかけて米国の景気減速懸念がクローズアップされた1年だった。
米国ではインフレ懸念が根強く、利上げ観測がくすぶった状況だ。06年にも18年にもないファクターの一つとして、マーケットにおけるAIブームが存在する。今回の選挙戦では、データセンターの建設計画の是非が争点となった。米テック企業は共和党に多額の資金を提供したものの、米国民の総意を受けて、過熱していたデータセンター投資は軌道修正を迫られることになる。ハイパースケーラーのフリー・キャッシュ・フロー(FCF)の改善時期が遅れるとの懸念が強まれば、AI・半導体株を含め、米テック株への物色意欲が一段と削がれる恐れが高まる。
<悲観のなかで強気相場は生まれるか>
生成AIを巡る規制が強化されるとの悲観も広がっている。中間選挙に先立ち、世界各国で大規模なサイバー攻撃が発生し、その影にAIの存在を指摘する声は多い。直近ではゴールドマン・サックス・グループ<GS>が高度なコーディングを支援するAIの社内利用を制限したと報じられた。中国製AIが存在感を増すなかで、安全保障と直結するAIそのものの開発に米国が制限を掛けるというシナリオは考えにくい。それでも市場では「中間選挙とは別にして、AI・半導体株の調整はまだ不十分」(国内証券)との声が聞かれる。東京市場ではキオクシアホールディングス<285A>の高水準な信用買い残が取り沙汰されている。AI・半導体関連株の先高観が強まるには、一定の時間を要しそうだ。
トランプ氏の敗北の主因となった中東情勢の変化にも市場の関心が向かうことになるだろう。アイザワ証券投資顧問部の三井郁男ファンドマネージャーは「トランプ大統領がレガシーを作るとすれば和平だ」と指摘する。ウクライナ情勢や、イランへの軍事行動に端を発した原油相場の上昇は、米国民にインフレという負荷を掛けることにつながった。和平実現によりインフレ懸念が収まれば「金利高が一服し、株にはプラスとなる」との見方を示す。東京市場においては「行き過ぎたAI物色の対極に位置していたソフトウェア関連株や、ファンダメンタルズは決して悪くはない不動産セクターに対する注目度が高まる可能性もある」と読む。
金利という観点では、トランプ氏が今回の中間選挙を前に、共和党が上下両院で多数派を獲得した際に、米国民に対し5000ドルを支給する考えを示したことも、その実現性は抜きにして、市場の話題となった。もっとも、一時5.3%台をつけた米長期金利の上昇の要因には、財政不安のみならず、ハイパースケーラーによる社債の発行増も背景にある。今回、民主党が上下両院の多数派を確保したとの報道を受け、アジア時間4日の米長期金利は一時的に上昇する場面があったが、ほどなく上げは一服した。
三菱UFJアセットマネジメントの石金淳エグゼクティブファンドマネジャーは「民主党の政策が緊縮的というわけではないが、少なくともトランプ政権のようなバラマキ型の政策は、議会でストップを掛けられることになる」とし、米長期金利に低下圧力が掛かると想定。ただし「水準として高い状態」が続くとの見方を示す。日経平均については「短期的には自律反発の流れが見込まれるものの、6万4000円から6万5000円程度まで戻した後は、再度調整に向かう可能性がある」と話す。
振り返ればトランプ氏が大統領の座を射止めた2016年秋のマーケットは不確実性を前にした悲観が一気に強気に傾いた局面だった。「強気相場は悲観のなかで生まれ、懐疑のなかで育つ」との相場格言があるが、経済政策の実現や財政出動にハードルが課されることが決まり、AI規制論が叫ばれる今回はどうか。ユーフォリアを通過したAI・半導体関連のブームが本当に終焉するとなれば、マーケットに深い爪痕を残すことは必至だ。(長田善行)