武者陵司 「歴史的大変革時代、株主資本主義の勃興(前編)」

市況
2018年6月15日 13時30分

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

(1) 歴史的大変革時代の到来に議論の余地なし

●大変革期到来

インターネット AI(人工知能)、ロボットと、通信情報革命の進展は止まるどころか、一段とうなりをあげて加速している。十年後は、我々の生活、ビジネス、経済、社会が、いまとは比べものにならないほど大きく変わり、成功の夢にあふれた時代になっているだろう。

まさに現在は人類の歴史上屈指の大変革期である。西洋人が新大陸を発見し、夢と希望をもって海を渡った15世紀の大航海時代。ゴールドラッシュに誘われ、アメリカ人が西部の荒野を突き進んでいった19世紀の大開拓時代。西洋文明を乾いたのどを潤す水のごとく吸収し、近代化を推し進めた明治大正期の日本の大発展期――。そんなロマンにあふれた時代と比肩できるほどの、いや、もしかしたらそれ以上の大激変期かもしれない。

●サクセスストーリーと斜陽化の混在

大転換期には多くのビジネスチャンスが存在する。アメリカンドリームという言葉は有名であるが、サクセスストーリーはアメリカだけの特権ではなく、中国アジアなどに満ちあふれている。

しかし、他方でかつての主役が軒並み退場を迫られつつあるという現実もある。インターネットに駆逐される既存流通網、既存の銀行システム、既存の情報メディア、出版・テレビ・新聞などが斜陽化することが見えてきた。特に銀行預貸業はブロックチェーン技術の発展により、かつてのフィルム産業、レコード産業のごとく、霧消するかもしれない。

●斜陽化する銀行預貸産業、台頭する株主資本主義

だが、心配するには及ばない。金融の新旗手として株主資本主義が大きく台頭しつつある。今や株式市場は配当と自社株買いにより、企業余剰を実体経済に還流させる最大のチャンネルとなっている。また、M&Aによる創造的破壊の舞台である。加えて新技術があらゆる局面での裁定を可能にし、利ザヤが極限まで低下する中で、株式と他の金融資産との間には顕著な価格差が存在している。日本の国債利回りや預金金利がゼロ、それに対して株式配当2%、株式益回り7%と極端である。この株式の割負け(相対的高リターン)は世界共通である。そこは最後に残された巨大な裁定投資の処女地といえる。

狭義の金融(債務・元本保証の金融商品)のリスクがテクノロジーによって計量化され薄利化していくのに対して、株式は計測不能の不確実性そのもの、そこに金融利益の源泉が集約されていく時代である。新産業革命は、金融の担い手を銀行から証券会社に転換させることになるだろう。

●日本における株価上昇の限りない可能性

近代日本の株価を振り返ると、昭和の後半、1950年から1990年の40年間で日経平均株価は約400倍の値上がりを見せた。しかし、今上天皇が即位した1989年の日経平均は3万円、退位される2019年の日経平均が現状維持(2019年6月14日時点で2万3000円)だとすると、30年間で約23%減である。

しかし、新しい天皇の時代、年率10%の率で株価が上昇すれば、15年後の2034年には日経平均10万円を突破する。世界的な株価上昇はここ40年で年率ほぼ10%なので、そのペースでいけば、日経平均は10万円になり、株式時価総額は現在の686兆円(国民一人当たり571万円)から3000兆円(一人当たり2500万円)へ劇的に増加するのである。そんな馬鹿な、と思われがちだが、アベノミクスが始まる直前と今とを比較すると2012年11月末から今日までのわずか5年半の間に、日経平均は2.5倍となり、株式時価総額も2.7倍となったのである。

●長期株高を支える日本の二つの優位性

それでは日本の株価が年率10%で上昇し続けることの根拠は何か。平成の時代に日本の将来を保証する二つの決定的優位性が育まれたことを指摘したい。その第一は国際分業上の優位性。日本企業は「ナンバーワン領域」を失った代わりに、技術・品質で無数の「オンリーワン領域」を確保した。国際分業が進展し、各国が相互依存を強めていくとき、大切なものは希少性である。希少だから高く売れて儲かり、国民生活と経済、投資が報われる。近年絶好調の日本企業の業績は、この希少性に支えられているといっていい。

平成時代に日本が巡り合った二つ目の優位性は、日本の地政学的立場である。世界覇権をめぐって米中対決が本格化しつつある中で、日本が米国につくか中国につくかで米中の覇権争いの帰趨が決まることは明白。米国にとって、日本はイギリスやイスラエルなど、どの伝統的同盟国よりも重要になってきている。中国に対抗できる強い日本経済は米国国益に直結する。近代日本の盛衰を決定づけてきたのは地政学環境、つまり日本が世界の覇権国とどのような関係性にあったのかであるが、それがかつてないほど有利化しているのである。もはやジャパン・バッシングの円高や貿易摩擦は起きようもない。それは日本の国際分業上の優位性をさらに強めるものとなるだろう。

以上が、日経平均が年率10%で上昇し続けるという話の根拠である。株式投資を成功させる知恵が、人々の人生後半の幸福度を大きく左右する時代に入っていることは、ほぼ間違いない。株式を「投機だ」「不労所得だ」と蔑み遠ざけてきた時代は終わっているのである。

※「歴史的大変革時代、株主資本主義の勃興(後編)」に続く。

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