明日の株式相場に向けて=「AI革命」のカナリアは未だ鳴き止まず
週明け11日の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比295円安の6万2417円と続落。前週末(8日)は日本を含むアジア株市場が総じて調整色を強め、その流れは欧州時間に入っても変わらず、独DAXや仏CAC40など主要国をはじめほぼ全面安商状となった。こうなると米国株市場の動向が気になるが、現地時間の朝方取引開始前に開示された4月の米雇用統計で非農業部門の雇用者数が前月比11万5000人増となり、事前コンセンサスの5万5000人を6万人も上回った。これが神風とは言わないまでも、スタート目前の米株市場に強い追い風となったことは確かだ。
ところが、雇用統計の1時間半後に発表されたミシガン大学調査による5月の米消費者態度指数は1952年の統計開始以来の最低を更新した。雇用は絶好調されど消費者心理は「歴代最高レベルの絶不調」という不可解な状況に陥った。需要とリンクしていないコストプッシュ型のインフレに対する不満が非常に強い、ということを投影している。これは国民目線ではトランプ関税について既に失策であるとの烙印が押されているに等しい。もっとも、消費者マインドの冷え込みに対して半導体などのハイテクセクターの銘柄群は何の痛痒も感じなかったようで、引き続き我が世の春を謳歌するごとく値を飛ばした。
きょうの東京市場における主役は、陰線は引いたもののザラ場に上場来高値をつけ、歴代最高の1兆8400億円台の売買代金をこなしたキオクシアホールディングス<285A>だが、これは前週末の米株市場でサンディスク<SNDK>が16.6%高と値を飛ばし、最高値を更新したことが大きく影響している。米株市場と東京市場のAI・半導体株人気は良くも悪くも合わせ鏡のようになってきた。
一方、イラン情勢が今後どういう形で収束に向かおうとも、ホルムズ海峡の封鎖で高騰した原油高は本来なら起こる蓋然性が乏しいインフレ要因であったわけで、11月の中間選挙で共和党の大敗を既定路線化させている。しかし、難しいのは政治が混乱のプロセスをたどっても株価が下がるかというと、決してそうではないということだ。突入前夜を思わせる物価上昇モードは、トランプ関税のネガティブ・バイアスに加え、いうまでもなく中東有事によってもたらされたものだが、株式を保有しない限り今度は丸腰で“インフレという戦火”に晒されるという恐怖と向き合うことになる。結局、キャッシュでは弱過ぎるという観念は「(株を)持たざるリスク」という解にたどり着く。更にそれを助長しているのがAI・半導体革命で、これは張り子の虎でないことは論をまたない。2000年のITバブルの時とは似て非なるものであるが、としてもおそらくは競争意識に苛まれ過剰な投資に踏み込み過ぎていて、仮需によって創出されたバブルが弾ける場面がいつか訪れる。しかし、それは今ではない。これが現在の時間軸で言えるトランプ劇場の大まかな進行状況である。
前週末にナスダック総合株価指数は440ポイントあまりの上昇で史上最高値を更新。上昇率はNYダウの0.02%高に対し、1.70%高と大差をつけた。しかし、半導体銘柄で構成されるフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)に関してはナスダック指数の比ではない。5.5%高で最高値圏を快走している。SOX指数は3月末から4月下旬にかけて驚愕の18連騰を記録したが、その後は上昇一服を経て、行き過ぎた歯車の逆回転を期待した売り方を嘲笑うかのように再び高速で順回転を開始した。半導体セクターでは勃興するエヌビディア<NVDA>と対比されて斜陽企業のレッテルを貼られそうだったインテル<INTC>が、火柱高と形容するよりないチャートで史上最高値圏を駆け上がる。既にそこに勝ち組と負け組のコントラストは存在しない。AIデータセンターの無双と化した爆需がインフラを担う半導体関連をまとめて高みに押し上げる。
今は米国を発祥とする生成AI革命相場の何合目か。それは定かではないが、売り方が仕掛けをあきらめてコールオプションを買い漁るような事態になるまで続くかもしれない。強気相場は懐疑の中で育つというが、たどり来て周りを見渡せば未だ薄暗い懐疑の森を抜けていない。陽光がまだ完全に降り注いでいないAI・半導体インフラ関連の穴株ではニッタ<5186>、ミタチ産業<3321>、TMH<280A>、オハラ<5218>などに着目。また、上場来高値圏突入が目前のローツェ<6323>や、日足一目均衡表の雲抜けでいよいよ本領を発揮しそうなトリケミカル研究所<4369>などをマークしたい。
あすのスケジュールでは3月の家計調査(及び2025年度の家計調査)、日銀金融政策決定会合の「主な意見」(4月27~28日開催分)、4月上中旬の貿易統計がいずれも朝方取引開始前に開示されるほか、前場取引時間中に10年物国債の入札が行われる。後場取引時間中には3月の景気動向指数(速報値)、消費活動指数が開示される。また、個別に富士フイルムホールディングス<4901>、古河電気工業<5801>、住友電気工業<5802>、ダイキン工業<6367>、三菱重工業<7011>、川崎重工業<7012>、オリンパス<7733>、SUMCO<3436>、資生堂<4911>などが決算発表を予定している。海外では5月の欧州経済センター(ZEW)の独景気予測調査、4月の米消費者物価指数(CPI)、4月の米財政収支などが発表されるほか、米10年物国債の入札が行われる。なお、ウィリアムズNY連銀総裁がスイス中銀主催の討論会に参加予定で、その発言内容に耳目が集まる。(銀)